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August 25, 2009

ショパンと腰痛

自分のキャパシティを超えたことをやろうとすると、
カラダにつけがまわって来る。
これこそが年をとるということである。

私がショパンのバラードを弾いていたのは、
花も恥じらうセヴンティーンの頃、
化粧するでもなく、イヤリング一つつけるでもなく、
親の言いつけどおり3時間も4時間も真面目にピアノをさらって、
確かに集中力を維持するのはなかなか大変ではあったけれど、
カラダの方には何一つ異変は起こらなかった。

あれから30年近くたってピアノを再開して3年あまり、
ようやく指も多少滑らかさを取り戻し、気持ちもほぐれてきて、
ちょっと難易度の高い曲をやってみようか 、あの頃は弾けたんだからさ、
などと色気を出したのが運の尽き。

もちろん、いまは別の本業がある身、一日に3時間4時間も弾いたわけじゃない。
せいぜい1時間、それも一日のあっちこっちの時間をかき集めて
それくらいである。

それなのに。
練習を始めて3週間たったころ、まず右アシの付け根に痛み。
ついで左のコシに痛み。ビテイコツにも痛み。

ショパンはペダルを多用する。
それも私程度の素人技術でも、
3段階くらいは異なる力配分の踏み込みを必要とする。
右コシの痛みはそれが原因だ。右をかばうから左もおかしくなる。
もともと西洋人男性の手の大きさを基準にした楽器。
骨格の貧相なアジア女は技術と格闘しようとして前のめりになってしまう。
嗚呼かわいそうな私のコシ!

たまらず整体師氏のところへ駆け込んだ。
治療台の上で、私のカラダはへしゃげた蛙のようにされ、
「ヨガやってる人がなんでこんなに骨盤ずらすの」
という整体師氏のあきれ声を聞く。

「だいたい姿勢が悪すぎ」「これが本来あるべき姿勢」
ぐぐっとカタを開かれ、セボネに整体師氏の膝がめり込む。
でも一時間半の治療が終ったときには、コシはかるーくなっていた。

もっともまだ無理はできない。
今はペダルを使わずもっぱらタッチの明晰さを出す練習にいそしんでいる。
どうやら私は、不用意な屈伸にすぐ異議申し立てをするこの厄介なコシに、
もう少しつきあわねばならぬようである。

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August 20, 2009


私は空港に向かっている。
この飛行機を逃すと日本に帰れない。絶対乗るのだ、と思っている。
それなのに、私は出発時刻を正確に知らない。
ただ遅れそうだ、ということだけ知っている。

周りの人々は優しく、暖かく、私を送る会を催してくれている。
なのに、私は出発の時間が気になって気になって、
ちゃんと彼らに応対することができない。

ごめんなさい、ごめんなさい、こんなにしていただいたのに、
と呟きながら、それでも私は空港を目指す。
空港に行くには私が普段は通らない猥雑な町並みを
通りすぎていかなければならない。
品物を積み上げた市場の細い路地は、嗅いだことのないような、
複雑なスパイスの香りがし、狭い階段にはモノが溢れ、
肌の色の違う男達が私をじろじろ見ている。

ごめんなさい、ごめんなさい、
私は日本に帰らなければならないの、
どうしてもあの飛行機に乗らなければならないの、
ごめんなさい、ごめんなさい。。。
私は東洋人の人形のようにぺこぺこ頭を下げながら、
卑屈な愛想笑いを浮べて、先を急ぐ。

空港は、恐ろしいほど近未来的で、
銀色に輝く、上が見えないほど長いエスカレーターを
上がっていかなければならない。
一列に並んで横を開けるなどというルールを持たない人々を、
右へ左へ掻き分けて、ああ、遅れる、遅れる、と
私は動かない足を引きずってどこかを目指す。

待って、待って、置いてかないで。
私はそれに乗らないと日本に帰れないんです。

涙で喉がきゅっとなって、目が覚めた。

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August 15, 2009

書けない

不思議なもので、だらだらと日常を書き綴っただけの日記でも、
こころに余裕がないときは筆が進まないのである。
なにかにとらわれているときは決まって、
自分の一日を人さまに知らせてなんになる、などと自嘲の心境に陥り、
いまや日記が書けるか書けないかが自分の(体調ならぬ)心調の
バロメーターともなっている。
なにしろもともと内容がないことを書いているので、
書くことそれ自体がおもしろくないときは、当たり前だが書けない。

夏目漱石の「文鳥」を読んだ。これが凄い。
見事になんの内容もない。
しかし、「た」「た」「た」と連なる短い文が、
独特の間を作り、ユーモアを生み出し、ペーソスを生み出し、
「描写」というものの真髄を見せつける。
漱石先生ありがとう。
なんだか少し元気が出て来たよ。

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